目を覚ましたら外が明るかった。
こんなことは久しぶりだった。
いつもなら、日が昇るときの、身体が変わるときの痛みとか、いろいろで嫌でも目が覚めていたから。
怖いくらいに気持ちよい朝。
瞼をそっと持ち上げれば、昨晩からずっと一緒だったヒトの顔がすぐそばにあって…
その腕に大事そうに抱かれてた。
彼はとてもあったくて、身体を寄せれば、彼の穏やかな心臓の音が聞こえてきて…
それだけで涙が出そうになっただなんて…


シャワーから止めどなく出てくるお湯が、ぐるぐると渦を巻きながら排水溝へと吸い込まれていく。
しばらくそれをぼんやりと眺めていたが、一つため息をつくとノズルを捻ってお湯を止めた。
このどす黒い感情も、お湯と一緒に流れていけばいいのに。
現実は厳しくて、どれだけお湯をかぶっても何一つ流れない。落ちない。変わらない。
ぽたぽたと、髪から、顎から、腕から、濁ってくれない透明な水滴が落ちていく。

分かっている。

彼が恋い焦がれてやまないのは、もう一人の自分だということは。

あぁ、彼のところに帰りたくない。
でも彼の腕に抱かれたい。

彼が望む自分は本当の自分ではない。
でも自分は本当の自分を望んでいる。

きっと本当の自分を取れば彼は悲しい思いをするだろう。
いや、違う、自分が怖いんだ。彼が離れていくことが。
離れていって欲しくない。近くにいて欲しい。
好きだから、好きでいて欲しい。

これは自分の欲。

あれもこれも全部欲しいなんて、なんて卑しいんだろう。


そう、きっと、はじめから好きになってはいけないヒトだった。
自分を好きにさせては、いけないヒトだった――――――














         12




「グリーン……グリーンってば」
「うぅ…ん…」

耳元で自分を呼ぶ声に、グリーンはうっすらと目を開けた。
開けた隙間から朝の日差しが容赦なく差し込んでくる。
しかし瞼が重たい。
身体の疲労感が抜けない。
…完全に寝不足だ。
まだ靄のかかった思考の中で、自分を起こそうとする声をぼんやりと聞く。
それはよく知る声。
でも、昨晩聞いていた声とはまた少し違う声。

「そろそろ起きないと、遅刻するよ?」
「……遅刻って、どこに…」
「そりゃあ学校でしょ」
「あぁ…学校ね………………って、学校!?」

勢いよく身体を起こしたグリーンは、その勢いのまま自分を起こしてくれていた人と至近距離で向き合う形になった。

「うおおぉおおおレッド!?」
「…おはよ」

目を見開くグリーンと、気まずそうに身体を引くレッド。
完全に眠気が吹っ飛んだグリーンは、まじまじとレッドの姿を見た。
少し女らしさの抜けた顔の骨格。
そして昨晩よりも少し低い声。

「…男のほう?」
「ごめんね男で」

咄嗟にグリーンから目をそらして謝ったレッドだが、グリーンは「なんで謝るんだよ」と怪訝そうな顔をする。
そして、昨日攫った時と同じ、シーツにくるまった格好のレッドを見て、グリーンはさらに首をかしげた。
レッドの髪はしっとりと濡れているし、至近距離だった時にはなんだか良い匂いがした。
ということはつまり…

「…シャワー浴びた?」
「うん、ちょっと前に起きたから」
「…なんでまだシーツにくるまってんの?」
「………」

素朴な疑問だったのだが、レッドはみるみる不機嫌そうな顔になっていく。

「…グリーンの服もらってもいいのなら着るけど」
「あ…」

グリーンはすっかり忘れていた。
そういえば、レッドは全裸の状態でここまで着たのだ。
当然、服は、無い。

「…悪い。…で、俺はどうすれば」
「てきとうに服買ってきてくれない?一回家に帰るから…」

レッドがむすっとしたまま答えれば、グリーンは少し考える素振りを見せた後、小さく頷いた。

「制服も家だもんな。でも昨日の今日だし一人じゃ帰らせたくねぇ…俺もついてくからな」
「…ありがとう」

働いているところを知られていたくらいだから、きっとアパートも把握されているのだろう。
しかし居場所を変えるにも、まず荷物をどうにかしなくてはいけない。
要するに、一度帰らなければ何も始まらない。
だけどやはり待ち伏せされていたらと考えると怖いため、レッドにとってグリーンの申し出は正直有り難かった。
不機嫌そうな顔を少し緩めてお礼を言ったレッドに、グリーンもつられて笑うが、ふとレッドのほうをまじまじと眺め出す。

「…?な、なに…」
「や、ホントに男なんだなぁって思って…」

そう言って、グリーンはあろう事かレッドがくるまっているシーツを掴んで下へとずり下げた。
驚愕に目を見開くレッドにはお構いなしに、グリーンは「やっぱ胸ねーな」と興味津々にペタペタと身体を触ってくる。
レッドはあまりの羞恥に声も出ず、口を魚のようにパクパクさせることしか出来ない。
昨晩散々触られた身体だが、今は男の身体である。昨晩とは違う。
男の身体を触られるなんて、めったにないのだ。
文化祭の時にサカキに触られた気もするが、あれは恐怖が勝っていた。今とは状況が違う。

要するに――――――恥ずかしすぎる。

「や、やめろっ!見るな!触るな!」

やっとの事で非難の声を上げ、じわじわと迫ってくるグリーンの身体を押し返す。
しかしグリーンはけろっとしたもので、不思議そうにレッドのほうをのぞき込んでくる。

「何だよ男同士だろ?別に恥ずかしがることねーじゃん…」
「ふざけるな!男だから恥ずかしいんだろ!?」

真っ赤になった顔を横に反らしながらグリーンの手を払いのけ、じりじりと後退するレッド。
嫌がられるとなんだか余計に構いたくなってしまって、レッドに更に近づこうとするグリーン。

「ぃ、いい加減に…」
「おはようございまーーーーすっ!!!」
「起きてますかぁあぁぁあああ!!??」

いい加減にしろ、と紡がれるはずだったレッドの言葉は、いきなり激しく開けられたドアとともに飛び込んできた声によって見事に遮られた。

「………」
「………」
「………」
「………」
「………えっと…」
「……あの…」
「………」
「………」
「………おはようございます」
「…さっきも聞いた」
「挨拶は一回しかしちゃいけないなんて決まりはないです」
「………」
「………」
「………」

静寂に包まれる部屋。
非常に気まずい空気が流れる中で、レッドだけが一言も発さず、真っ赤なまま小さく震えていた。
見られた。
見られてしまった。
グリーンにつっこみながらも、コトネとヒビキの視線はレッドに釘付けになっている。
当然だ。
だって、昨晩彼らが見たのは…

「……えっと、そちらの方は…」
「おいおまえら!!ノックも無しに入ってくるんじゃねぇよ!」

恐る恐るといった感じに尋ねようとしたヒビキだったが、やっとこさ我に返ったグリーンが叫んだためその質問は遮られた。
それにつられて呆然としていたコトネも、ハッと我に返って応戦し出す。

「何ですか!見られちゃまずいことでもしてたんですか!っていうかグリーンさん裸!?きゃぁあぁああうら若き乙女の前で信じられない!」
「ノックもせずにずかずか人の部屋に入ってくる奴をうら若き乙女とは言わねぇ!」
「なにおぅ!?」
「つーか悲鳴あげるくらいならとっとと出てけよ!」
「っていうか朝から何盛ってんですか信じられない!」
「ちげーよ!」
「信じられない!」
「ちげーって!」
「コ、コトネ、一回出よ…」

止みそうにない言い合いに、ヒビキはコトネの腕を掴んで部屋から引きずり出した。
まだ何か言いたそうにしているコトネをぐいぐい引っ張って、すぐ隣の部屋へと移る。
とりあえず入ったコトネの部屋は、もういつでも出発出来るように荷物がまとめられていた。
ヒビキは混乱した頭のまま簡素なベッドに腰を下ろすと、伺うようにコトネを見る。

「…さっきグリーンさんと一緒にいた人…誰?昨日一緒にいた人はどこ行ったんだろ?」
「や、昨日と同じ人でしょ」
「えっ…でもさっきの人、どう見ても男だった…」

確かに髪型や顔つき、目の色まで非常によく似ていた気がするが、胸があるか無いかは大きな違いである。
はだけた上半身には、昨晩見えた豊満な胸は、全くなかった。
更に困惑顔になったヒビキに、コトネは小さくため息をつくと、鞄の中からバインダーに綴じられた資料を取り出した。
ヒビキが知る限り、コトネの私物にそんなものはない。
首をかしげたヒビキに、コトネはそれをポンポンと軽く叩いた。

「これなーんだ」
「…コトネのじゃないことは分かるけど」
「……何で分かるの?」
「まぁ、付き合い長いし…?」
「ふぅん…?ま、いいや。これ、あの研究施設からもってきた」
「…は!?」

思いもよらない回答に、ヒビキは思わずベッドから立ち上がった。
そんなヒビキはさして気にせず、コトネは神妙な顔つきでそれをパラパラとめくる。

「1階に落下した時にちょうど手に当たってね。そのまま懐にするり、と。それで、さっき軽く流し読みしてみたけど……とんでもないことが書いてある」
「…何が書いてあるの?」

ごくりを生唾を飲み込んでヒビキが身体を乗り出す。
それは先ほどの疑問の答えとなり得る情報ということなのだろうか。
期待半分、不安半分にヒビキはコトネの持つ資料に目をやった。

「ヒビキ君、ジラーチっていうポケモン知ってる?」






***






ヒビキとコトネが部屋から出て行った後。
レッドは固まった体勢のまま、二人が去り際に閉めていったドアを見つめ続けていた。

「グリーン…」
「…なんだ?」
「………見られた…」
「あぁ、そうだな…」

どこか遠い目をしたグリーンもまた、ちらりとドアを見、その後レッドに視線を戻す。
今の電撃訪問は完全に想定外だった。
レッドはまだ赤い顔のまま、今度は怒りにわなわなと震えている。

「っていうか何で鍵かけてないの!?」
「あー、昨晩かけ忘れたんだなー…」
「昨晩から!?鍵もかかってない部屋でしてたとか!信じられない…!」
「まぁいいじゃねぇか。見られたわけでもねーし」
「今さっき見られただろ!?」

ぎゃんぎゃん噛み付いてくるレッドを宥めるように、グリーンはよしよしとレッドの頭を撫で回す。
その手をレッドは振り払い、更にグリーンに詰め寄ろうとしたが…

「おはようございます。もう起きてらっしゃいますか?」

ドアの向こうからノックの音とともに聞こえた声に慌てて毛布にくるまってベッドへと突っ伏した。
これ以上昨晩と違う自分の姿を他にさらすわけにはいかない。
グリーンはと言うと、慌ててパンツとズボンだけを穿き、「起きてます」とドアに向かって返す。
そしてグリーンがシャツを頭からかぶったと同時に、声の主、ジョーイさんが鍵のかかっていないドアを控えめに開けた。

「ポケモンの回復、済んでますよ」

そう言って、昨晩預けたモンスターボールを差し出される。
その中にピカチュウが混じっているのに気づき、グリーンはしまったと露骨に顔を歪めてジョーイさんをちらりと見た。
保護指定ポケモンを預かって、またトレーナーに返したとなればジョーイさんにも責は及ぶだろう。
もう上に報告したのだろうか、と昨晩何も考えずにピカチュウまで預けてしまったことを激しく後悔しながら二人分のボールを受け取る。
そのグリーンの思考に気づいているのかいないのか、ジョーイさんは少しだけ困ったように微笑んだ。

「誰にも言ってないわ。センターのデータベースにもデータは残してない。安心して」

通常なら、回復のために預けられたポケモンは、種類、性別、レベルなどが、詳細なデータとして膨大なデータベースに記録される。
手持ちとされるポケモンの傾向などを知るのにポケモンセンターほど適した場所はないからである。
しかし、ジョーイさんは必須作業とされるそれをピカチュウに行っていないという。
どうして?

「…まだ、保護条例から逃げ切ってる子がいるなんてね」

その、複雑そうな、しかしどこか嬉しそうな微妙な表情をするジョーイさんを見て、グリーンはその理由をなんとなく悟った。
きっと、ジョーイさんも心の中では保護条例を認められないのだろう。
理不尽に取り上げられるポケモンたち。
そんな悲しい顔をする人たちを、ポケモンを、ジョーイさんは人よりも遙かに多く見てきたに違いない。
今まで家族のようにすぐ隣にいた相棒が、ある日を境にいなくなる。
その虚無感はグリーンも身をもって感じた。
ナッシーが、ウインディが、カイリキーが、バンギラスが、ドサイドンが、ピジョットが、突然いなくなった。
しばらくは何も考えることが出来なくて、ただ呆然としていた。
そしてもう皆はいないのだと現実として認識した瞬間、張り裂けそうな胸の痛みに、息が出来なくなった。散々部屋のものを壁に投げつけた。慰めてくれた周りの人たちに当たり散らした。
…涙が、止まらなかった。
おそらくジョーイさんは、ボロボロだったレッドに、更に今追い打ちをかけるようにその痛みを感じて欲しくなかったのだろう。

「きっと、言えないようなことに首を突っ込んでいるんでしょう?今まで無事だったことにも驚きだけど…かなりレベル高いみたいだし。絆も相当のものよね。その子、夜通しボールの中で暴れて大変だったわ」
「はい…絶対に、離れちゃいけない存在ってやつなんだと…思います」

主人の下へ行こうと、必死だったのだろう。
そのピカチュウは、今この部屋にレッドがいることを感じ取っているのか、おとなしくボールに収まっている。

「ふふ…そんな子たちを引きはがすなんて、私には出来ないわ。でも、内緒でお願いね?」

人差し指を口元に当てて悪戯っぽく微笑んだジョーイさんに、グリーンもやっと小さく笑みを返す。

「ありがとう…ございます…」

このポケモンセンターに居たのが彼女で、本当に良かった。

「あ、そうそう。昨日の子、まともな服着ていなかったんでしょう?もし私の服でよければ使って?」
「え…」

ボールの次に手渡されたのは、上下の服。

「返してくれなくても大丈夫よ。もし気になるならいつか返してくれればいいわ」
「え……あ…」

服とジョーイさんの顔を交互に見るグリーンにニッコリと微笑むと、ジョーイさんは「それじゃあ」と言って部屋から出て行く。
そしてドアがパタンと閉じた音が部屋に響いたと同時に、シーツにくるまっていたレッドがひょこりと顔を出した。
何とも言えない顔でグリーンの方を見つめるレッドに、グリーンは「服良かったな」と言ってジョーイさんから手渡されたそれをレッドの膝の上にのせる。

「グリーン………、ピカチュウ…」

おずおずと言われたその言葉に、グリーンはハッとして手元のボールを見た。
レッドの言葉に反応したようにカタカタ揺れ出したボールの中には、ピカチュウがいる。
グリーンは、じっとこちらを見てくるレッドにピカチュウのボールを差し出した。

「ほら。おまえのピカチュウだ」
「……僕、グリーンにピカチュウを逃がしてってお願いしたと思うんだけど…メモ読んでない…?」
「ちゃんとトキワの森まで行ったぞ?ボールから出したけど、自分で戻って来ちまったんだよ」

おかげで電撃食らったり大変だったと、少し遠い目をするグリーンをちらりと窺うと、レッドは手元に来たボールの召還スイッチを押した。
微弱な光とともに、レッドの腕の中にピカチュウが現れる。

「ピカチュウ…ありがとね。いい子…」
「ピカ…」

あれだけ暴れてちっともグリーンに懐こうとしなかったピカチュウは、レッドに一撫でされただけでおとなしくなってしまう。
レッドはそんなピカチュウを慈愛に満ちた目で見ると、改めてピカチュウをその胸に抱き直した。
静電気で少し肌がピリピリするが、それすらも愛おしく感じる。
頬ずりしてくるピカチュウにくすくす笑いながら「くすぐったいよ」と返すが、ピカチュウを離そうとする素振りは全く見せない。
離れたくないのはお互い様ということだろうか。
グリーンは苦笑すると、ピカチュウに夢中なレッドの頭をくしゃりと撫でてベッドからゆっくりと立ち上がった。
自分もイーブイをボールから出し、その自慢の毛並みをよしよしと撫でてやる。
昨晩は激しい戦いになったが、イーブイはその名残も見せないほど元気にしっぽをぱたぱたと振っている。

「そういえば、一回逃がした後にグリーンのところに行ったってことは、今はピカチュウのトレーナーはグリーンってことになってるの…?」
「や、ピカチュウがそう思ってねぇみたいだしなぁ…それにちゃんとおまえの空ボールに戻ったしな、そいつ」
「…そっか」

レッドはピカチュウを改めて見る。
自分の手持ちでも最強を誇るピカチュウだが、そのプライドは相当のものである。
きっと、自分がピカチュウを逃がしてくれとグリーンに頼んだと知って、かなりのショックを受けたに違いない。
どうしてもピカチュウとグリーンの両方を守りたくて出した結論だったが、そのせいでピカチュウを傷つけてしまったことは確実である。
こんなにも自分を思って、相棒と認めてくれて、ここまで一緒に来てくれたピカチュウなのに。
どうして手放そうなどと考えてしまったのだろうか。

「ごめんねピカチュウ……もう、絶対離さないから…大丈夫だよ」
「チュウ…」


その様子を横目で見ていたグリーンは小さくため息をついた。
ピカチュウとレッドが長い年月をかけて培ってきた絆が、垣間見えた気がして。
そう、それが、羨ましいだなんて。
ピカチュウ相手に、嫉妬してしまっているだなんて…

"いつからこんなに女々しくなったのかね…"

絆なら、グリーンとイーブイにだってある。
しかし、今グリーンが欲しいのは、レッドとの絆だった。
身体で繋がるだけではまだ足りない。
もっと、心まで全部繋がりたい。
それは終わりの見えない欲望。
胸の中でぐるぐる渦巻くどす黒い感情は、すべてレッドに向けられるものを羨み、妬むもの。
そんな自分が嫌で、グリーンは軽く頭を振るとレッドのほうを振り返った。

「さっさと服着ろよ。せっかくジョーイさんが用意してくれたんだし。買いに行く手間省けたし、よかったな」
「…あんまりよくない気もするけど」
「何でだよ」

眉をひそめたグリーンに、レッドはピカチュウを身体に引っ付けたままジョーイさんからもらった服を開いてみせた。
そう、ジョーイさんはレッドが実は男なのだということは知らない。
よって、くれた服も女物。
ご丁寧に下着まで付けてくれている。

「あぁ、うん、まぁしょうがねぇよ」
「……グリーン服交換しない?」
「しねぇよ。俺を変態にする気か?」
「僕は変態になってもいいって?」
「おまえは大丈夫だ」
「………」

レッドはものすごく複雑な顔でジョーイさんの好意を見つめた。
ふわふわしたワンピースのため、上にジャケットを羽織ってしまえば体型はごまかせるかもしれない。
しかし…これは…どうなんだろうか…

「………」

ちらりと時計を見れば、針は既に7時半を回っている。
確かにこのままだと学校に遅刻する。
レッドは小さくため息をつくと、半分自棄になってその可愛らしいワンピースを頭からかぶった。
それを見届けて、グリーンも床に捨てられてくしゃくしゃになってしまっている上着を拾って着る。
と、次の瞬間、再び何の前触れもなくドアが開いた。

「グリーンさん!そろそろ出ないと本気で遅刻ですよ!?」
「ていうか今日英単テストあったの忘れてたんですけど!!」

さっきのノックに関するグリーンの言葉はヒビキとコトネの頭には残らなかったらしい。
荷物をまとめて部屋に傾れ込んできた二人は、ちゃんと服を着たグリーンと、その隣のちゃんとワンピースを着たレッドを見て分かりやすく固まった。

「「何でだーーー!!!!!」」







***









「さぁて、グリーンさん、レッドさん、お話の方、詳しくお聞かせ願えますか?」
「…おまえらどうしてここが分かったんだよ」

そして12時半を過ぎたお昼時、いつもの屋上の特等席で昼食を取っていたグリーンとレッドの元に、笑みを湛えたコトネと、軽く苦笑気味のヒビキがよじ登ってきた。

「ふふふ…コトネちゃんの情報網を嘗めないでもらえます?」
「コトネ、素直に走って探し回ったって言いなよ…」

朝ポケモンセンターを出た一行は、ちょうどセンターの前に止まったバスに乗り自宅へと帰り、各々ので着替えと準備を済ませて学校へとダッシュした。
グリーンに至っては、普段使わない自転車を倉庫から引っ張り出し、レッドを後ろに乗せて猛ダッシュした訳だが……
ギリギリ出欠に間に合わず、セーフにしてくれと担任に頭を下げる羽目になった。
ちなみに自転車置き場までついて行かずに昇降口へと走ったレッドはなんとか間に合ったらしい。
グリーンは購買で買った菓子パンを頬張りながら、なんとか登り切って隣でぜーはー息を荒げているコトネを見た。
コトネの肩にかけられているミニバッグからはペットボトルとサンドイッチが覗いている。
どうやらまだ昼食を取っていないらしい。
ちなみに、今日に限ってはレッドも弁当を作れるはずもなく、グリーンと同様購買で買った菓子パンを囓っている。
その姿は当然と言っては何だが、男の学生服。
コトネはそんなレッドのほうをちらりと見ると、バッグから取り出したペットボトルのお茶をグビッと飲んで一息つき、言った。

「レッドさん、聞きたいことは山ほどあります。というか答えてもらいます」

その言葉に、グリーンが目を丸くした。
レッドの事情は、グリーンですらよく分かっていない。
というか、レッドが話したがらないため、知りたくても知れないのである。
きっと巻き込みたくないというレッドの気持ちがそうさせているのだろうが…

「…僕が君に話して何か良いことがあるの?」

やはり、レッドはコトネに対しても冷たく言い放つ。
グリーンにはそれが優しさの裏返しだということが分かっているからいいが、コトネは傷つくのではないか…と思ったのだが、

「実は私、レッドさんが知らないことまで知ってるかもしれませんよ?」

予想に反して、コトネはニヤリと悪そうな笑みを浮かべた。
それにレッドがぴくりと反応する。

「何を知ってるって…?」
「じゃあまずは基本的なことから。レッドさんは日が出ている間は男だけど、日が出ていない間は女の姿になってしまう、そうですね?」
「………」

沈黙を肯定と受け取ったコトネは、サンドイッチの包みを開きながら続ける。

「その呪いをとくためには、レッドさんが自分より強いトレーナーと繋がることが必要…」
「コトネ、もういい」
「…そして、サカキが先にレッドさんより強くなってしまった場合には…」
「コトネ…!」

レッドが珍しく声を荒げてコトネに静止をかける。
コトネは口をつぐむと、黙ってサンドイッチにかぶりついた。

「コトネ、レッドさんはグリーンさんに聞かせたくないんだよ…」

ヒビキがおろおろしながらコトネに耳打ちする。

「これだけ巻き込んでおいて何も知らないほうが可哀想だと思うけど…」
「…んだよ、それ……」

そこで初めてグリーンが口を挟んだ。
何もかもが初耳だ。
思い返してみれば、彼女…紅に会えるのは夜だけだった。
家に行った際は、日が昇る前に無理矢理起こされて、追い出された。
レッドが目の前で女に変わったのは、日が落ちた後夜祭直前だった。
救い出したときは、夜だったから女。
朝は、日が昇っていたから、男。
やっと、すべてが繋がった気がした。
いや、コトネから聞かなくても、考えれば分かることだったのかもしれない。
しかし、まだどこかで性別が入れ替わるという非現実的な現象から目を背けたがっている自分がいて、きっと考えることを無意識に押さえ込んでいたのだ。

「んで、その呪いってのが…?」

サカキが、レッドより強くなったら、何だって?
グリーンの脳内に思い出されるのは、あの文化祭でのサカキとのタッグバトル。
最後、電光石火が決まるか決まらないかという時、ちらりと目の端に映ったレッドは、緊張というよりも、恐れと苦痛に満ちた表情をしていた。
そしてその後、その場で気を失ってしまった。
あのとき、もしサカキが勝っていたらいったいどうなっていたのか。

「…それは」
「もういいよ、コトネ」

グリーンに答えようとしたコトネに、再びレッドが割り込む。

「自分で…話す…」

レッドは俯いたまま、食べ終わった菓子パンの袋を無造作にポケットへと突っ込んだ。

「レッド…」
「ごめんねグリーン…今まで黙ってて。でも、いつかは話さなきゃとは…思ってた…」

レッドは目を細めて、空を仰ぐ。
雲一つない快晴。
しかし、その空を見るレッドの表情は、曇り空のように暗い。

「下品な言い方になるかもだけど、コトネが言ったように自分より強いトレーナーを探す必要があった。でも、そんなの見ただけじゃ分からない。非公式のポケモンバトルは禁止されてたしね。…だから、腕が立つトレーナーかもしれないって思ったら、その度にやってた」

中にはトレーナーだと偽ってレッドに近寄ってくる輩もいたが、レッドが凄腕のトレーナーを探していると広まると、実際にそこそこ実力のあるトレーナーも遠くから尋ねてきてくれるようになった。
…もちろん、向こうも身体が目当てだったわけだが。
しかし身体を何度重ねても事態は一向に変わらず、レッドは不安と焦りでいっぱいいっぱいになっていた。
そんなとき、ポケモンの権威と言われるオーキド博士に出会い、そしてその孫がなかなかのやり手だと聞いて、駄目元で紹介して欲しいと頼んだ。
それが、グリーンとの出会い。

「グリーンも聞いたでしょ?店での僕の噂」
「あぁ…聞いたけど」
「軽蔑してくれて構わない。軽い女だって」

まぁ、実際は男なんだけどね、とレッドは自嘲気味に呟く。
レッドだってやりたくてやっていたわけではなかった。
毎回行為の度に味わったあの激痛は、今思い出しても涙が滲みそうになる。
それでも、手持ちがそばにいない状態でレッドに出来ることはそれだけだった。
何もしない間に、サカキが自分よりも強くなってしまったら、そこで負けは確定してしまうのだから。

「そこでレッドさんに質問です」
「………」

そこでコトネが口を挟んだ。
食べ終わったサンドイッチの包みを豪快にバッグに突っ込んで、レッドをじっと見る。

「…その自分よりも強いトレーナーってのは、見つかったんですか?」
「………」

真っ直ぐな目に射貫かれて、レッドは思わず目を細めた。
質問してきてはいるが、その自信に満ちた表情を見るに、おそらく答えはなんとなく予想できているのだろう。

「そう…だね」

グリーンがビクリと反応したのが目の端に映ったが、そちらには視線は向けずに、レッドはコトネに続きを促す。

「それで?」
「じゃあ、呪いがとけていないのはどうしてですか?」
「まだ…足りないから…」
「足りないというと?」
「僕を超える可能性を持ってるっていうこと。でも、今はまだってだけ…」
「………それで、解決の糸口を掴んでいるのに、何もせずにのんびり構えていると?」
「コトネ、そんな言い方…!」
「そうでしょ、本人に告げないで…」

その相手に告げなければ、強くなってくれと言わなければ、何も始まらない。
ここでこうしている間にも、サカキは着々と実力を付けていっているはず。
何も知らないまま終わりを迎え、そこで事実を知るほうが相手にとってはよっぽど残酷だ。

「言えるわけない…」
「レッドさん…!」

レッドは唇を噛んで目を伏せた。

こんなに優しくしてくれる人に、
こんなに自分を守ろうとしてくれる人に、
こんなに自分に愛情を注いでくれる人に、
これ以上、何かを求めるだなんて、

できるわけ、ない。

「散々危ない目に遭わせて、散々心配かけて、なのに散々甘えて、こんな自分勝手な我が儘、言えるわけない…」
「自分勝手な我が儘かどうかは、本人に聞いてみなきゃ分からないんじゃないですか」
「自分勝手だよ…我が儘だよ………僕がこうなったことに何も関わってないのに…」

苦しそうに顔を歪めるレッドを、グリーンは呆然として見ていた。
話についていけない。
つまり、どういうことなんだろう…

「結局、誰なんだよ、その、レッドを超えるかもしれないトレーナーって…」

しかし、その情けない声を聞いた瞬間、コトネが眉をつり上げて激昂した。

「あんたですよ、グリーンさん!いい加減気づいてください!!」
「お、俺…?」

驚いてレッドを見るが、レッドは即座に目をそらせてしまう。
それは肯定を意味していた。

「俺が、レッドを救える可能性をもってる…?」
「そうです!ようやく自覚しましたか!?」

グリーンは唖然としていた。
遠くに午後からの始業を告げるチャイムが響いている。
昼休みはとうに終わっていた。
しかし誰もその場を動く者は居ない。

「…でも、俺、レッドなんかよりずっと弱い…」
「そりゃあレッドさんは元リーグチャンピオンです。激強なのは当然ですよ」
「コトネが前言ってたのって、レッドさんのことだったんだ…」

ヒビキがいつかの定期バトルの日の朝の会話を思い出して呟く。
何故元リーグチャンピオンほどの人が定期バトルに参加していなかったのか。
それには、当時予想だにしなかったこんな理由があったのだ。
男のトレーナーとして有名になってはいけない。
何時、何処で、誰が自分を見ているか分からないから。

「それでも…っ!グリーンさんは、レッドさんが救えるかもしれないって分かって何もしないような人じゃないですよね?それとも私が買いかぶりすぎですか?」

射殺さんばかりの視線で貫かれて、グリーンはぐっと言葉を詰まらせた。
しかし、コトネの言うとおりだ。
レッドのために何か出来るなら、してあげたい。
してあげられると、信じたい。
でもそれは、――――――ちゃんとレッドの口から聞きたい。

「レッド…」
「………」

レッドがぴくりと反応する。

「今、俺はおまえの事情を知ったよ。俺は、俺に出来ることなら、おまえのために何でもしてやりたいって思う。おまえは、俺が断ると思ったのか?信じないと思ったのか?…だから、何も話してくれなかったのか…?」


『グリーンに会えたから…もう他の人とはしなくてもいい』


今になって思えば、あのときのレッドの言葉はちゃんと、自らが問いかけたことの答えになっていた。
自分を超えるトレーナーを求めて、日々行為に明け暮れていた。
しかし、そのトレーナーと出会うことが出来たから、もうその必要はないのだと。

「違う…」
「レッド…?」
「僕は、元の身体に戻りたい。だから、手段なんて選ばなかった。元に戻れればそれでよかった。グリーンと初めて会ったときも、正直グリーンのことなんてどうでもよかったんだ。ただ、その呪いをといてくれる器としてしか、見てなかった」

グリーンを見た瞬間、レッドは直感でこの人だと分かった。
同時に、今まで身体をはってしてきたことが無意味だったことが、分かった。
だけど、単純に嬉しかった。
これで、これまでの苦しみから解放されるのだと、利用される相手のことも考えずに自分のことだけを考えていた。

「最低だよ。僕はグリーンを利用するためだけに近づいたんだ。なのに、グリーンはこんな僕に優しくしてくれるし、心配してくれるし、大事に…してくれるし……。だんだん、グリーンに惹かれてくのが分かって……」

震えるレッドの声が、だんだん小さくなっていく。

「そのうちに、グリーンに求められたいって考えるようにまでなっちゃって……。僕にそんなことを思う権利なんてないのに。グリーンのためを考えるなら、グリーンにこれ以上近づいちゃいけなかったのに…」
「何でだよ…求められたいって思うのは悪いことなのか?」
「悪いことだよ!グリーンの求められたいと僕の求められたいは違う!!」

泣きそうな顔でレッドが語気を荒げる。
グリーンは胸が締め付けられるような感覚に襲われながらそんなレッドを見ていた。
レッドが何をそんなに苦しんでいるのか分からない。
分からないから、こちらまで苦しい。

「おまえは、俺を利用することに罪悪感を抱いてるのか?俺を巻き込むことが申しわけないって思ってるのか?…だったら俺はそんなの気にしねぇよ?」
「そんな綺麗な感情じゃない…!」

いや、はじめはそうだった。
しかし、グリーンという「人」にのめり込んでいくうちに、違う感情がどんどん胸の内を浸食していった。

「グリーン、僕は元に戻りたいんだ。それはグリーンの感情を裏切ることになるだろう?僕は男だ。呪いが解ければ女になることはなくなる」
「……っ」
「グリーンが求めてくれてるのは女の僕だ。呪いが解けたら、今までみたいに身体を重ねることもなくなるし、今までの関係はもう一生築けなくなる。グリーンはそれを望んでないだろう?むしろ、サカキが先に強くなって、サカキの願いが先に成就して僕が呪いで女になったほうが、グリーンも嬉しいんじゃないの!?」

一気に捲し立てたレッドは、息を荒げて小さく肩を震わせている。
そう、レッドは怖かった。
協力してくれと頼んで、自分のことを全て知られて、その上で、“女”の自分のほうを選ばれたらどうしよう、と。
それが怖くて仕方なかった。
グリーンが“女”である自分に好意を寄せてくれているのは分かっていたから。

「言っただろ?自分勝手な我が儘だって…軽蔑してくれていいよ、グリーン」
「…あぁ、よく分かったよ…」
「…………、」
「分かった。おまえが、とんでもないアホだってことが」
「っ?」

レッドが驚愕して顔を上げる。
泣きそうな、怒っているような、困っているような、そんなよく分からない表情のままグリーンを見つめる。

「おまえは、そうやって自分で全部背負い込むことで俺を逃がそうとしてるんだろ?おまえが全部悪いってことにして、俺が悩んで、苦しまないようにしたいんだろ?」
「……ちゃんと話聞いてた…?僕は…」
「あぁ、聞いてたけど、おまえが優しいってことしか分からなかったな…」
「…!?」
「黙って聞いてりゃ自虐的なことばっかり並べやがって。俺のことを呪いを解く器としか見てなかった?初対面の相手にそう思うのは当然だろうが。それに、レッドに求められる権利がないって?求めてんのは俺だ。求めるのは俺の権利だろ?」
「な、何言って…」
「元の身体に戻りたいのは当然だろ!それを何悪いことみたいに言ってんだよ!俺の感情を裏切るだぁ?レッドは、俺がレッドが男になった瞬間にレッドに対して興味なくすような男だと思ってんのか?俺をそんな薄情な男だと?」
「…だって、女の僕を好きなんだろ…?」
「女女うるせぇよ!俺がいつそんなこと言った!?」
「…っ」
「俺は“女”のレッドが好きなわけじゃない。レッドが好きなんだ。だからレッドに幸せになって欲しい。レッドが幸せな未来に、俺もいたい。…おまえが望む未来に、俺は寄り添いたいんだ!!男か女かなんて関係ねぇよ!!」

グリーンの言葉に、レッドがびくりと震える。
見開かれた紅蓮の双眸から、ぽたぽたと滴が零れだした。
途端、レッドの顔がくしゃりと歪む。

「…なん、で……なんでそんな、優しいの?」

グリーンをずっと騙していた。
自分も騙して、グリーンに一方的に自分の思いをぶつけた。
ただ、思っていたことは、言ったことは全て本当だったのに。
…なのに、グリーンはそれすらも受け止めて、こんな自分を「優しい」という。

「…どんだけ、ばかっ、なんだよ…!」

ずっと思い悩んでいたことを簡単に否定してくれた。
自分が欲しかった言葉をいとも簡単にくれた。
こんな自分を…好きだと言ってくれた。

「おいおい、バカはねぇだろ…」
「ばか!ばかばかばかばかばか!!!」

ボロボロと流れる涙を袖で何度も拭いながら、レッドは俯いた。
本当に、この「グリーン」という人間はどこまでお人好しなのだろう。
だから、本気で巻き込みたくないと、そう思ったのに…

「レッド、おまえ、元の身体に戻ったら最初に何やりたいんだ?」

なのに、そんな質問までしてくる。
レッドはぐちゃぐちゃな頭のままで、一番最初に思い浮かんだことを口にした。

「母さんに…会いたい…」
「しばらく会ってねぇのか?」
「会えない…リーグチャンピオンになったら、真っ先に母さんに報告しに行こうって思ってた……でもサカキに捕まって、こんな身体になっちゃって……こんな紅い眼じゃ、母さんに会えないよ…!」

思った瞬間に、会いたいという気持ちが溢れてきてどうしようもなくなる。
元に戻りたいという願望が濃さを増す。
涙が、止まらない。

「紅い、眼?」

しかし、グリーンは言っていることを理解しかねて首を傾げた。
それを見て、今まで黙っていたコトネがグリーンにこっそり耳打ちする。

「レッドさんの眼、元は黒色みたいです」
「…そうなのか」

今の燃えるような紅蓮も魅惑的で綺麗だと思うが、きっと闇のような漆黒も、髪の色と相まってとても美しいのだろうな、とグリーンは思う。

「そんじゃ、お袋さんに会うためにも、元に戻らなくちゃな」
「…っ、ぅ、ん」

泣きじゃくるレッドの頭をよしよしと撫でて、グリーンは優しく微笑んだ。
そして、未だに下を向くレッドの頬を両手で包んで、自分の方を向かせる。
拭われない涙が、頬を伝ってグリーンの手をも濡らしていく。

「そんで、俺に何か言うことがあるんじゃねぇの?」
「………グリーン…」


胸の内を何か熱いものが駆け巡る感覚。
不思議と、心は軽い。


――――――大丈夫だ。


「…強く、なって…? ……僕をっ、助けて…、ください…っ!」


レッドのためなら、いくらでも強くなれる。
















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