偶然の言い訳は二回まで









偶然の言い訳は二回まで










「…何お前、ストーカ―?」

 レッドは訝しげに眼の前に現れた幼馴染を見た。何度目になるだろうか、彼とばったり遭遇するのは。目指しているものが同じであるのだから、長い旅の途中一度や二度出会うのは、おかしくないのかもしれない。だけど回数を重ねれば重ねるほど、グリーンの「偶然に決まってんだろ!」の言葉の信憑性は薄らいでくる。 
「で、性懲りもなく僕に挑んで負けてく訳だけど。グリーンはSに見せかけたMだよね」

「そう言うお前は紛うことなきSだろうが…」

 バトル終了後、膝を折るグリーンに容赦のない一瞥を投げる。別にいぢめているわけじゃない、遊んであげているだけなのにその言い草はない。そう考えている時点で先に言いだしたのは自分だという意識はレッドの頭から消えているのだが。

「さて、今回は素直に負けを認める気あるの?」

 にやにや笑いながら、声をかけるとグリーンはさも悔しげな顔をして此方を睨んでくる。彼をからかうのは非常に面白い。追いつめすぎていつも逃がしてしまうのは悪い癖だ。今回こそは、此処で捕まえて、自分が彼に背を向けてやるんだと決めていた。ちらちらと、いつまでもすぐ眼の前を走っていられるのは目障りだ。今度はこっちを追いかけてくればいい。

 後ろ姿を見せつけて、お前を置いていってやるんだ。

「っ、確かにお前は強い。他の誰も認めなくても俺が認めてやる」

「…?結構色々な人から認めてもらえているけどね」

 じゃらり、と集めたバッジを見せつけるようにして言う。もちろんグリーンだって同じ色のものを持っているはずだから自慢にも何にもならないのだけれど。なんとなく意地を張る。 
 マサラに居た頃の、何も出来なかった自分とは違うんだ。

 お前にずっと見下され続けていたような、弱い僕じゃない。

 この関係が、いつまでも変わらないと思っていたら大間違いだと分からせてやりたい。 
「そういうんじゃない。俺だってそんなこと理解っているさ」

 ため息。なんだか気に障る言い回しに苛立つ。自分だけで完結している、そんな言い方だった。途端に面白くなくなって、固定していた視線をグリーンから移動させた。

 そういえばモンスターボールが切れていたんだと思い出し、ふと立ち寄った町。ショップに入ろうとした瞬間に声をかけられ、郊外まで強制連行。そして周りに被害が出ないことを確認したうえで始めたバトル。互いのポケモンのレベルは高くなっているため、特別な施設がある場所でない限り近くに第三者が居るのはとても危険だ。

 グリーンしか居ない。

 木々や藪は存在しているから、野生のポケモンくらいなら居るかもしれないが、人間は眼の前にいる彼ひとりだけ。胸を掠めていく緊張に、無性に腹が立った。自分が何かに怯えているような、嫌な感覚をおぼえる。

「………はっきり言ってよ、気持ち悪い」

 グリーンは言葉を探しているようだった。時折浮かべる苦しげな表情を見ているとさらに苛々してくる。そこまで自分に話したくないのかと思うと少しだけ、悲しいような気もした。

「そんなに言いたくないんだ?じゃあ言わなくていい、僕はもう行くからね」

「違っ…おい、待てって」

 肩を掴んだ手は力強く、レッドをその場に留める。

 振り返るとそこにある、真剣な表情のグリーン。息がとまりそうだ。意志の強い瞳に映りこむ自分の姿にレッドはたじろいだ。

「俺はお前のことが…」

「『お前のことが』なに?」

 口を閉ざしかけたグリーンをどうにか喋らせてやろうと追い詰める。小さく咳払いして彼はどうにか言った。

「つまりだな、俺がお前のことを…他の誰よりも一番分かってるって言いたいんだよ!」

 瞬間的に染まる彼の頬を見ていられたのは、ほんの数秒だった。理由は単純、いつもと同じくグリーンは物凄い勢いで行ってしまったからだ。 

「っは、バカじゃないのか」

 そうやってまた自分だけ逃げてしまうくせに。残していく爆弾はどうしようもない威力で。彼の言葉ひとつがレッドの頬さえも鮮やかに染め上げる。

 偶然なんて嘘だろ、そう尋ねればどう答えてくれるのか。

 帽子で顔を仰ぎながら、熱で溶けてしまいそうな頭でぼんやりと考えていた。




【偶然の言い訳は二回まで(あまのじゃくな恋のお題) 終】












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ということで!
カナデさんとの合作第4弾!ラストでした!
素敵小説を4つも本当にありがとうございましたぁ!!(>_<)
なんていうかもう、どのグリレも最高すぎるというかなんというかうおぉおおぉおって感じでもうどうしようって感じです(日本語)
こんな素敵小説にこんな絵でいいのだろうかって感じですが、優しいカナデさんのお言葉に調子にのって結局4枚描いてしまいました…
カナデさんありがとう!!
またやりましょう!!(というグリレ催促コメントでした)