不思議な花






とにかく暑い暑いと皆が騒ぐので、狂たちはたまたま近くにあった川へと涼みに来ていた。
紅虎は服を脱ぎ捨てると水の中へ飛び込むようにして入り、梵天丸は服を着たまま水に浸かり、サスケは足首までを水に入れて。
狂は川の傍にある木陰に腰を下ろして昼寝をしていた。
その隣りには灯とアキラが何やら言い争っている。
そんな感じで、それぞれ思い思いに川を堪能していた中。

「・・・何かしら、これ?」

狂たちがいるところとは別の木陰を見つけて座ろうとしていたゆやは、根元に生えていた不思議な色の花を見つけた。
その花は、七色に光っていて見る角度により色を変える。
ゆやはそれを皆に見せたいと思ったが、これほど珍しい花を手折るのは気が引けた。
かと言って、水浴びや昼寝中の皆をこちらに呼ぶのも申し訳ない。
「まあ、もう少ししてから皆に言えばいいわよね」
それまでは一人でこの花を観賞していよう、とゆやは虹色に光るそれを人差し指で突く。
同時に、花弁から青く光る花粉が舞った。

「何してんの?」
ゆやが虹色の花を突いたり眺めたりしている最中、ほたるがやって来た。
水嫌いの彼は、こんなに暑くても水浴びをする気はないらしい。
ある意味我慢強いなあと思いつつ、ゆやは足元の花を指差した。

「この花、すごく珍しくないですか?ほら、ここなんか見たこともない色で・・・」

感動を分かち合える人間が来てくれた、とゆやは少し興奮気味にほたるへ足元の花について説明する。
が、その声はすぐに途切れた。
代わりにゆやの顔に浮かんだのは、大きな戸惑いの色。
「・・・ほ、ほたるさん?」
「・・・・・」
「あ、あの・・・?」
ゆやが困惑するのも無理はない。
何故なら、かつてないほど真剣な、と言うより鬼気迫るような顔をしたほたるが、ゆやの方へじりじりと迫ってきたのだから。

あまりにほたるが顔を近づけるので、ゆやはぺたんと腰を付く。
少しずつ交代すると、すぐに背後の木へとゆやの背がぶつかった。

「っど、どうしたんですか・・・!?」
訳のわからないゆやは、半ば混乱して尋ねる。
こんな恐い顔をしたほたるを見るのは、まあ初めてとは言わないが、滅多にない。
しかも、その顔がかなりの至近距離で自分に向けられているのだから、驚きと共にその理由がわからないと言う恐怖で、ゆやは泣きそうになった。

ゆやの潤んだ瞳に、ほたるの手が伸ばされる。

「・・・っ!?」
思わず目を瞑ってしまったゆやだったが、一向にほたるの手が彼女に触れることはなかった。
その代わりに。

「・・・何で、そんな顔するの?」

少しだけ、語尾が震えたようなその声に、ゆやが目を開けると、すぐ目の前にはじっと己を見つめてくるほたるの顔があった。
「え・・・?」
「ねえ、何で?」
「え、あ、あの・・・?」
「そんなに俺のことが嫌い?」
ゆやが、目を見開いて硬直した。
こんなこと、いつものほたるならば言わない。少なくとも、ゆやはそう思っていたから。
だから次に言われたほたるの言葉を聞いて、更にゆやは驚く。

「・・・俺は、あんたのことが好きなのに」

「・・・・・!?」
あまりの衝撃に、ゆやは驚きの声を出すことも出来なかった。
二人の傍で、七色に光る花が風に吹かれて青い花粉を振り撒く。

ほたるの手が、今度こそゆやの頬に触れて。ゆやはびくりと身を震わせた。

「何で、震えてるの?」
「・・・そ、それは」
「やっぱり俺が・・・嫌いだから?」
「ち、違います!」
俯いていた顔を上げ、叫んだゆやに、ほたるは小さく息を吐いた。

「・・・じゃあ、いいよね。あんたに触っても」
「っえ・・・」
金色の髪を梳くようにして触れ、ほたるがゆやの首元に顔を埋めようとして。

「貴様それでも『元』壬生の戦士かぁああぁあっ!!」

ずぎゅる、と普通ならありえない音が立ち、肩に鋭い飛び蹴りを喰らったほたるは何故か回転しつつかなり離れた川へと転がり落ちた。
「・・・し、辰伶さん・・・?」
何か色々とつっ込みたいことはあったのだが、あまりの衝撃的シーンに、殆ど放心状態のゆやがぽつりと呟く。
辰伶は、妙に達成感に満ちた顔で額の汗を拭うと、いつもの堅苦しい顔でゆやに向き直った。
「何だ、椎名ゆや。言っておくが、あの飛び蹴りは螢惑の不埒な振る舞いを罰するためにした訳であって、断じてお前にちょっかいを出すあいつに嫉妬したわけではない」
「は、はあ・・・わかりました」
何故こんな言い訳じみたことを口走るのだろうと思いつつも、それ以上はつっ込まないゆやだった。

「あ、そうだ。辰伶さん」
「何だ」
ゆやは、再び足元の不思議な花を指差して、この花は何か知らないかと辰伶に尋ねた。
博識そうな雰囲気を持っている辰伶ならば、何か知っているのではないかとゆやは思ったのだが、その予感は見事的中する。
辰伶は、心なしかふんぞり返って七色の花について説明しだした。

「それは随分貴重な種類の花で、壬生の地にも滅多に咲くことはない。実際、俺も実物を見るのは初めてだ。そして、青く輝く花粉は、強力な『媚薬』に使われると聞く」
「へえ、そうなんですか・・・・・って。え?」
感心したように頷いて、ゆやは一歩後ずさった。
先ほど鬼気迫るような真顔で迫ってきたほたる。あの様子は明らかに異常だった。
それが、この足元の花のせいだとしたら・・・

ほたると同じくらい鬼気迫った顔をした辰伶から逃げるために、ゆやは更に後ずさる。
その木の根元では、相変わらず七色の花が青い花粉を振りまいていた。

「ししし、辰伶さん!ま、待ってください!!」
「これ以上待つ理由はない。壬生の地は少子化問題も深刻なのだ」
「唐突に何をさらっと言っちゃってるんですか・・・!?」
蒼白になるゆやに迫る辰伶。その手が、ゆやに触れるその時。

「てめえ、姉ちゃんに何してやがる・・・」

じゃきりと刀を背後から突きつけられ、辰伶は動きを止めた。
「サスケ君っ!」
そして、ゆやが逃げるようにサスケの方へ駆け寄る。
それを見た辰伶の顔が、烈火の如く険しいものになり。

「子供の分際でこの辰伶の邪魔をするとはいい度胸だ・・・」
「誰が餓鬼だ・・・てめえこそ、『俺のゆや姉ちゃん』に手出しすんじゃねえよ」

「・・・サスケ君も青い花粉を吸い込んじゃったのね・・・」
ちょっと遠い目になりながら呟いたゆやの声は、もちろん二人とも聞いちゃいなかった。
ゆやの足元では、やはり七色の花が青い花粉を振りまいている。

「俺の水龍で中から喰らい殺してくれる!!」
「水撒きなら好きなだけやってな!!」

辰伶の水龍とサスケの電撃が炸裂し、やっと、周りで水と戯れていた他の面々も一連の騒ぎに気付いた。

「何やってんだてめえ!!」
「辰伶!?あなた、またゆやさんを狙って・・・!?」
「つうかジャリ、ちょっとゆやはんにくっつきすぎやないか!?」
皆が色々と叫ぶ中、物凄い殺気を噴出して歩み出るのは紅き眼を持つ一人の鬼。

「辰伶・・・てめえは、殺す」

そして、狂の白虎が炸裂する。その技を喰らい、色々と理不尽なものを感じつつ辰伶は彼方へと飛んでいった。
これでやっとこの騒動が収まったと安堵するゆやの足元には、衝撃を免れた七色の花が、まだ青い花粉を振りまいていたりする。







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A-larts.のあにぃ様のフリー小説を盗んできました。
この話だいっすきです。
ゆやちゃん総受けばんざ〜いって感じですね。
辰伶が珍しくへたれじゃありませんよ!注)うちの辰伶は全部へたれ;
こんな素敵な小説を書かれるあにぃさん!
これからもついて行きます!!!!(迷惑)
し、失礼しました。
これからも、どうかよろしくお願いします。
本当に有り難うございました!